【文芸部】Vol.5 リレー小説「私の願い」(4)
こんにちは。
文芸部です。夏休み期間に四人の部員でリレー小説を制作しました。良かったら読んでみてください。
(海苔)
ふいに一人の先生と目が合う。微かにだけれど、眼鏡の奥で微笑んでいるように見えた。胸の奥に暖かいものを感じる。気づけば、あんなに頭を駆け巡っていた不安も、だいぶ落ち着いていた。
先生が時計を確認し、三人の顔を見ながら言った。
「七分が経過しましたので、話し合いをやめてください。それでは、以上で二次選抜の...」
淡々と話す先生に、私達は動揺していた。まだ合格者が決まっていないはず...。この場合どうなるの...?そんなことを考えていると、先生の話を遮るように美雪が大胆に挙手をした。
「あの、合格者がまだ決まっていないのですが」
すると、先生は少し躊躇う様子で言った。
「問題ないです。大変申し訳ないのですが、皆さんの本心を図るためにこのようなことを致しました。何しろ校長の意向を汲んでのことですので」
どういうこと...?三人で顔を見合わせる。
「つまり、合格者が決まらなくても良いということです。その分、貴重な選定の資料になりましたので。ありがとうございました」
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家に着くと、恐る恐るお父さんが私に聞いてきた。
「面接、大丈夫だったか?」
お母さんも、不安な目でこちらを見ている。きっと、二人とも心配していたに違いない。何しろ一人娘の大事な試験日だったのだから。
「まだ分からないけど...。悪くはなかったと思う」
私がそう言うと、両親は安堵したように顔を緩めた。そしてお母さんが笑顔で言う。
「無事に試験が終わって良かったわ。お疲れ様」
「ありがとう。二人のおかげよ」
両親は顔を見合せ、お互いに微笑んでいた。合格が決まったわけじゃないのに、私もなんだか嬉しかった。さっき面接室で言えたこと。美雪や愛梨に勝るような内容かは分からない。それでも私なりに初めて本心を語れた気がして、小さな自信が生まれていた。
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合格発表当日。私は両親と共にパソコンの前に座っていた。
「じゃあ、見るよ...」
お父さんが震える指先でクリックする。ドキドキと高鳴る胸に、緊張感は増すばかり。息をすることも忘れて、三人で画面に並ぶ沢山の数字を見つめた。
私の受験番号は...。目で数字を追いながら一つ一つ確認していった。すると...。
「あった!」
大声で指さす私に、両親の視線が一気に集まる。間違いない。試験の日、何度も確認した私の受験番号。
「やった!」
三人で大喜びした。お互いの顔には最高の笑顔が浮かんでいて、私はただ幸せの中にいた。
「私、天志高校に合格したんだ...」
とても信じられなくて、まるで夢を見ているかのようだった。
気がつけば、私の瞳は濡れていて、お母さんの手が頬に触れていた。
「莉夏が頑張ったからよ。本当に私達の自慢の娘だわ」
「あぁ。よく頑張った」
両親の瞳にも涙が浮かんでいた。その様子に胸が熱くなるのを抑え、私は二人の顔を交互に見つめながら言った。
「違う。お父さんとお母さんのおかげなの。私一人なら到底無理だった。いつも優しい言葉をかけてくれたのも、憧れの存在でいてくれたのも...。全部が心の支えになっていたから。本当にありがとう」
涙が溢れて止まらなかった。今まで上ばかりを目指してきた私だけれど、見るべきものは目の前にあった。いつも傍で応援してくれていた。お父さん、お母さん本当にありがとう。
「もう、梨夏ったら。目が腫れちゃうじゃない」
「そうだぞ。お父さん明日は仕事だからな」
そう言い合いながら、三人は泣き止むまで笑った。
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私立天志高校。それは最難関大学合格者を多数輩出し、卒業生リストには著名人がずらりと並ぶエリート校である。様々な人材を送り出すことで有名であるが、彼らには共通点がある。
敬『天』愛人を常に『志』す者。
勉学は自分一人で成せるものではない。身の回りの全てのものを敬い、人を愛する必要がある。特に家族には強く。その志を図る為に、天志高校の二次選抜はこれからも続いてゆくー。
・・・完